- 【 秘本三国志 】
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陳舜臣著、全6巻、文春文庫。(中古で購入)
三国志は柴田錬三郎の『三国志』と『英雄ここにあり』、吉川英治を購入して読み、北方謙三は何度か立ち読みして気になりつつまだ買っていない。『中国小説十八史略』を数冊読んで、簡単でわかりやすい文章が気に入ってしまい、後に司馬遼太郎氏との縁も知ってますます好きになり、北方以上に気になりながらも、なかなか縁がなくて読む機会がなかった作品です。
五斗米の教母・少容(張魯の母)という驚異の若さを誇る美女の視点を用いて、史書と推理作家らしい考察を元に書かれています。好みは分かれるかもしれませんが、わたしは今まで読んだ中で、この人が書く孔明が1番好きです。孔明は三国無双でもそうですが(笑)、演義では万能の預言者のようなスーパー軍師(加えて周瑜を憤死させたり、決して性格が良いと思えない人物)として描かれていますが、本作の孔明は事実そうであったろうと思われる清廉な政治家であり、戦争の経験がなく軍師としての才がないことをよく自覚しています。理想主義であり現実的な政治家という表現に、尊敬される孔明の姿を想像することができました。また劉備も非常に老獪で、演義のような聖人君子でもありません。張飛はともかく、関羽も色ボケしたり、欠点を明記されたり、あまりに美化されて白々しく感じ、人間味のなさに全く魅力を感じなかった人物が、生身の人物らしく書かれています。歴史小説には登場人物の人間味がないと、と思っているので、長所短所、あるいは思い悩む姿に、実在していた劉備や孔明を感じられました。宗教、文化、風習についても書かれているので、中国に於ける道教や仏教の伝来・普及のあたりも興味深く読めました。
作中度々強調されているのが、曹操を貶めるために創作された事柄の否定。これも良かった。後世、多大な儒教思想の元、聖人化された劉備とは対照的に悪人にされた曹操の名誉を回復しようとしています。勿論悪行は悪行として書かれていますが、不当に貶められた不遇の英雄だなぁとしみじみ思いました。張魯も演義ではひどく書かれていますが、曹操には特別な敵意と悪意が込められているようで気の毒です。
推理、考察、独自の解釈も含むので、初めての三国志には不向きかもしれません。演義を土台とした三国志の後に読むのが良いと思います。張遼や徐晃、甘寧の活躍はあまり書かれていないのが不満といえば不満ですが、演義では単なるお人好しになってる魯粛は史書のような優れた人物になっています。周瑜・魯粛・呂蒙・陸遜と、反劉備・親劉備と分かれながらも国のために働くという根本的な志は同じなので、意見の相違を踏まえて孫権に後任者を推薦する経緯が好き。馬謖が奇策を用いるようになった理由も面白く、実際そうだったのかもしれないと思わせるものです。王平と三国無双のイロモノ・張コウもかっこよかったし、司馬懿も次代を虎視眈々と狙っているのではなく、才能があるばかり保身のために苦心する人物になっています。
呂布がバカで曹丕が(冷酷を装う)ニヒルなあたり、三国無双の呂布と曹丕はこの作品が土台なのかも。曹丕が甄皇后を殺す経緯と、弟との関係も良かった。冷酷な跡取を演じ続けた曹丕の苦悩、孤独が感じられました。この作品を読んで、曹丕も見直しました。(笑)
正直、こういう設定を嫌がる人もいるだろうなと思うところはあります。繰り返しますが、好みは分かれるでしょう。しかし難しい語句を使わない、わかりやすい文章は、とても読みやすいです。演義ベースにウンザリしている人にはお勧め。日本で初めて紹介された、正史を基にした小説とどこかで見たことがある気がしますが、わたしの記憶はアテにならないので違うかもしれません。オチは素直にやられた、と思いました。わたしは非常に素直に楽しめた作品。中古だったけど、定価で購入する価値があったと思っています。
『曹操』と『諸葛孔明』、半端にしか読んでいない『中国十八史略』も、いつか読みたいです。